曲紹介 (SoundCloud)

deltΔs - "xt/qm", "水色の月"

2014/02/27

多分この先、電子音楽は大きく分けて二つの方向に進んでいくだろうと思う。 一つ目は電子音楽が誕生する以前の音楽の要素を多く取り込む方向性だ。 例えば調を活用したメロディがあったり、抑揚があったり、 テンポに有機的な揺れがあったりという音楽だ。こうした要素は主に電子音楽というものに音楽らしさ、 人間っぽさ、生っぽさを吹き込み、コアな音楽ファンを喜ばせることはもとより、 様々な人間が電子音楽にアクセスしやすくするような入口を作るような役割を果たすだろうと思う。

もう一つの方向性は、電子音楽以前の音楽と照らし合わせて、より非音楽的であるとされる方向性だ。 この方向性の音楽ではヒトによるアコースティックな楽器の演奏のみでは困難な、電子音楽ならではの曲の展開、 例えばオーディオファイルを複数に細かく切ることで、ノイズとも取れるような非常に細かいビートを刻んだり、 ピッチシフターやボーカロイドを使用する事により、通常ではありえない音域の広さのボーカルパートを作りだしたり、 楽曲内の特定の音にだけ一時的にエフェクトをかけてアクセントをつけたり、 というような電子音楽ならではの展開をふんだんに取り入れたり、創り出したり、組み合わせたりしていく。 この方向性の電子音楽は、電子音楽で可能な表現技法の数を増やす役割を果たすだろう。

この両輪が同時に回ることで、電子音楽というもの前進していくと私は推測している。 さて、このdeltΔsのxt/qmはどちらの方向性の音楽だろうか? 私にはこの曲が紛れも無く後者の方向性の音楽であるように思われる。 一定のリズムで刻まれる機械的で無機質なキックの音をベースに、天気予報のアナウンスを収録したオーディオファイルが細かく切り刻むことで ビートを作りだしながら曲が展開していく。ステレオの左右には様々な機械的であったり無機質であったりする、ノイズ音、効果音、サンプル音が散りばめられ、 それらがリズムに乗せて鳴らされる。何かこうドラムセット的ではない”ドラムセット”により独特なビートミュージックが生み出されているような印象を受ける。 そして中盤から若干の恐怖感を感じさせる何かが迫りくるようなパッド音によって曲が徐々に盛り上げられ、曲が収束に向かっていく。

類似性を感じさせる音楽としては、池田亮司、そして先日紹介させて頂いたイシヅカケイが挙げられる。 また彼はエレクトロニカなトラックをベースとした歌モノの楽曲も作っていて、こちらもすごく良い出来だ。 実験的な電子音楽を作るアーティストにありがちな、とっつきにくそうなアーディストではなさそうだ。 尚この二曲が収録されているEP「flo▲ting delt△s」はセラミックレコーズのサイトから フリーでダウンロード可能。


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