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Nudge

"As Good As Gone"

Kranky, 2009

僕は夏よりも、冬の方が好きだ。(自分が冬の寒さの厳しいところに住んでいないから、そう思う部分はあるのだろうが) 夏は夏で解放感があっていいのだが、暑さのせいでダレた気分になるし、頭が働かなくなる感じがする。 それは自分にとってあまり好ましくない。冬の方が空気がピリっとしまってて、ヒンヤリとしていて気持ちがいい。 頭も冬の方が良く働くような気がする。雪なんか降って積っていたら最高だ。あたり一面が真っ白になり、 自分の見慣れた風景があっという間に、非日常的で幻想的な世界へと変わる。このNudgeの"As Good As Gone"はそんな冬景色に良く合うアルバムだ。

本作のリリース元のシカゴに拠点を置くインディペンデントレーベル、 Krankyの公式ページによると、彼らはロサンゼルスに拠点を置く、 Brian Footeを中心としたプロジェクトであるようだ。新しい音楽のテクノロジーと、既存の楽器を等しく扱う音楽性を志向している。 そして彼の協力者はStrategyで知られるPaul Dickow、歌モノのサイケポストロックをやっているバンド、Valetのレコーディングにも参加していた Honey Owensだ。 彼らはこれまでに4枚のアルバムリリースをしていて、本作"As Good As Gone"は2009年にリリースされた4枚目のアルバムにあたる。


聴いていると、このジャケにあるような、北国の世界が自分の中で広がる。ヒンヤリしていて、気持ちが良くて、 浮遊感のある音像だ。ジャンル的にはPost-rock,、Ambient-rockになるだろう。ロックの基本的な器楽編成の中で、 ギターが浮遊感のある、抽象的で、綺麗な音を鳴らす。 ギターは例えばコードをジャカジャカが弾くようなロック的な鳴らされ方はせず、 あくまで曲にテクスチャであったり、効果音を付加するような鳴らされ方をする。そしてドラムは乾いた音で、 そのビート感をあまり強調せず、アルバム通じて音数が少なで叩いている。たまにドライな音のするスネア、 シンバルをまばらに、そして即興的に叩く事で、まるで木枯らしが吹いているシーンを想起させるようなドラミングをすることもある。 そんなドラムに、同じくあまり強調されない乾いた音色のベースが絡み、そこに冬の世界観を演出するようなアコーディオンと浮遊感のあるシンセ、 聴覚を刺激するような電子的な効果音が入る。そうした出来たトラックの中で、この少し音程の外れた、 リバーブが深めにかけられた女性ボーカルがメランコリックに歌う。 全体としては音数の少ない、生演奏と電子音楽を有機的に融合させた、少し寂しげな冬景色を想起させるような音楽に仕上がっている。

個人的にこのアルバムで一番好きな部分は、最後の二曲の"Burn Blue"と"Dawn Comes Light"の流れである。 "Burn Blue"では深くリバーブがかけられた少し物哀しい男性ボーカルが歌う。サビになると、綺麗で抽象的なパッドによって、切なくも綺麗なコードが演奏され、 まるで冬景色の中に深く吸い込まれていくような感覚が得られ、良い感じに冬のメランコリーに浸る事が出来る。 そしてこの最後の曲、"Dawn Comes Light"では、ドラムレスになり、雪の結晶がちらちらと舞う様をイメージさせるようなギターの効果音、 渋みのある綺麗な音色のギターのアルペジオが鳴らされ、そこに"Burn Blue"と同じような物哀しげな男のボーカルが入る。 まるで静寂の冬景色の中に、男が佇んでいるようなシーンが想起される。 そしてその次に吹雪を想わせるようなディストーションナルなギターが鳴らされ、まるで吹雪の中で、 哀しく嘆く男が、歩みを進めて行くようなシーンが想起される。そして最後はその吹雪が去って、 再び静寂が訪れるようにして、アルバムは終わる。


個人的にはこの7曲37分51秒というコンパクトなアルバムのサイズには、かなり好感が持てる。一枚をサクっと聴けるのである。 またアルバム通してコンセプトの一貫性があり、かつ、アルバム全体の展開としての起承転結があるので、聴いた後に短い物語を読み終えたような満足感、 浮遊感が残る。そんな要因も手伝って、冬になるとちょくちょく聴いてしまうアルバムの一つになっている。

Nudgeの"As good As Gone"は決して目立つようなアルバムではないが、生演奏と電子音楽的な要素を有機的に融合させた、 冬景色をイメージさせる良作である。聴くなら辺りが非常が冷え込んでいて、雪の降りそうな今が旬だ。

Reviewer's Rating : 8.2 / 10.0

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