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VIDEOTAPEMUSIC

"7泊8日"

NEWVIDEO, 2012

僕がツチヤニボンドのような面白音楽がどっかに落ちて無いかなぁと、 インターネット上をサーフィンしていたところ、YouTubeで見つけたのがこのVIDEOTAPAMUSICだった。 そのサイケデリックかつ楽園的な映像と音楽は、とても美味しそうで、僕は心の中で涎を垂らしたものだ。

この謎めいたグループは一体何者なのか、と好奇心に駆られて、彼らの事ネットで調べてみたところ、 彼らの公式ページに、 「VIDEOTAPEMUSICは地方都市のリサイクルショップや閉店したレンタルビデオショップなどで収集したVHS、 実家の片隅に忘れられたホームビデオなど、古今東西さまざまなビデオテープをサンプリングして映像と音楽を同時に制作している。 VHSの映像とピアニカを使ってライブをするほか、他アーティストとの映像を使ったコラボレーション、 MV制作、デザイン、ビデオインスタレーションなど、その活動のフィールドはとても幅広い。」とあった。 なるほど、疲弊した地方経済の煽りを受けた店、BOOKOFFやTSUTATAやGEOなどの大手の企業との競争に敗れ、閉店した店から、ビデオをもらってきて、 それを音素材として使う、というのは妙案である。

昔、音質オタクたちと話していて、「ビデオテープは音質がいい」という話を聞いた事がある。 その内の一人はビデオテープを音源のマスターテープに選んだとか、選んでないとかってことを言っていたが、どうだったかは忘れた。 されはさておき、確かにこのVIDEOTAPAMUSICの作る音楽の音質はいい。レトロで、温もりがあって、濃厚な音がするのだ。 ザックリとこの音を一言で表現するのならば、「デリシャスな音」だ。 もしかしたら、彼らがビデオテープを音素材として使用した音楽を作ろうと思った理由の一つは、ここにあるかもしれない。

今のところこのVIDEOTAPEMUSICがどのようなメンバー構成で活動をしているのかは解っていない。 また、この作品には、やけのはら、ceroの髙城晶平と橋本翼、Kashif a.k.a. STRINGSBURN (Pan Pacific Playa)、 MC.sirafu、BETA PANAMA、飯田華子など、さまざまなアーティストがゲスト参加しているようだ。



さて、アルバムを聴いてみよう。この妙にセクシーな声をしている紙芝居アーティストの飯田華子の女性ガイド風のアナウンスから始まるこのアルバム。 まるで、これから聴く者を楽園的でサイケデリックな世界へいざなう様だ。さまざまな映画から抜いてきたであろう音素材の上に、 ピアニカや、サックス、8bitサウンド、サイケさを演出するシンセの効果音などが乗り、そしてそんなトラックに時折、 やけのはらのスチャダラパーを想起させるような脱力系ラップが乗る。 世の中にガッツリ向き合うタイプの音楽ってあるけれど、この音楽はそういう音楽の対極にあると思う。 ただ垂れ流して、気持ち良くダラダラするための音楽。だからといって、注意を払って聴いてみても退屈ではない。 そういう意味ではBrian Enoの提唱するアンビエント音楽の在り方と近いかもしれない。もっともそのサウンドには”アンビエント”的な香りは一切しないが。

また、かなり遊び心のあるアルバムであるのだけれど、 同時にコンセプトとして大変はっきりしたものを感じる。 聴いている限り、「このアルバムを聴く者を、仮想の田舎の夏のビーチのバカンスに誘い、一時の楽園的な安らぎを提供する」というような 一貫したコンセプトがあるように感じる。それはアルバム通して全くブレていない。 ただ、そのせいなのだろうか、このアルバムも先日書いたBuddy Girl and Mechanicのセルフタイトルアルバムと同じ問題を抱えているように思う。 どうもアルバム全体のノリが一本調子のように感じるのだ。似たようなテンポの、まーったりしたノリの曲がずっと続く。 一応変化球もあるにはあるのだが、どうも曲がりが小さいような気がする。 欲を言えば、このアルバムのコンセプトを崩さないままで、もう少し大きく曲がる変化球や、スローボールを駆使して、アルバム全体の流れに変化や緩急が欲しいところだ。


今日一日のやる事がもう何もなくなった深夜に部屋で一人、これを流しながら、ビールを飲み、つまみを喰いながら、 PCの中身の整理をしたり、ネットサーフィンしたり、物書きやら瞑想やらをしていたい、そんな事を思わせるアルバム。 僕は最近ずっと禁酒をしているんだけれど、そんな自分でもこの音楽を聴いていると、ビールでも飲んで気持ち良くなって、ダラけたい気分になる。 楽園的な世界観を作りだし、聴く者を一時的に現実逃避させるアルバムと言ったら、僕はSlowdiveの"Pygmailon"を想い浮かべるのだけれども、 このアルバムも音楽性や世界観は違えど、その点において"Pygmailon"と似たような効果を聴く者にもたらすアルバムであると思う。 VIDEOTAPEMUSICの7泊8日は、聴く者を46分間の間、彼らの思い描く楽園に現実逃避出来るさせてくれるアルバムである。 明らかに冬の夜ではなく、夏の夜に合う音楽であると思うので、次の夏まで寝かせておこうと思う。

Reviewer's Rating : 6.8 / 10.0

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