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Klan Aileen

"Astroride"

インディーズ・メーカー, 2012

昔アメリカの西部の砂漠じみた地域に住んでいた時に、マル○ロという人々をタバコという合法麻薬の中毒者にして金を巻き上げる、 世界的に有名なタバコメーカーから販促用のCDが送られてきていた。 そのCDにはアメリカの西部、中部、南部の荒野の道路沿いにポツンと立っているような木造のバーやカフェの店内で流れているような、 古き良きアメリカのロックンロールミュージックが沢山入っていた。 その楽曲群を聴いていると、少し空調の効いた木造のバーやカフェに入って、 外の日差しの強さから一時的に逃避し、涼んでいる時のような気分になったものだ。 Klan Aileenの奏でるロックンロールミュージックを聴いていると、自分がアメリカの西部に住んでいた頃と、そのマル○ロの販促用のCDの事を思い出す。


ongaku-heiyaによると、 Klan Aileenは2007年に松山亮 (Vocal/Guitar/Songwriter, ファーストアルバムにおいてはミキシング、マスタリングも担当) を中心として結成されたバンドであるようだ。 現在のメンバーは彼と竹山隆大 (Drums)の二人。Astroride制作時には、2013年の12月に脱退した伊藤大貴(Bass)が参加していたようだ。

彼らの音楽にタグを付けるとするならば、アメリカンロック、ガレージロック、サイケデリックロックになるだろう。 一聴、特に目新しい要素が付加されているという感じはしない。このバンドを揶揄する言葉して間違いなく「懐古主義」という言葉が使われるだろう。 確かにそう言われればそうなのかもしれない。しかしこのサイトで前にも言った通り、だからどうだっていうのだろう?  例えそうであったとしても、良いものは良いし、カッコイイものはカッコイイじゃないか、と、少なくとも僕に言わせるぐらいの突き抜けたクオリティを、このアルバムは持っているのである。


まずはエンジニアリングについて触れよう。パッと聴いた感じ彼らの音楽はLo-Fiな音をさせているのだけれど、 このスピーカーから出てくる音は、温もりがあり、滑らかさがあり、音が繊細に録られている印象を受ける。 矛盾するようであるが、それらの点において音質が良いとさえ形容したくなるLo-Fiな音だ。 この場合、Lo-Fiというのは音質ではなく、その音楽的スタイルや音色を指してのものになるかもしれない。 また彼らのディストーションギターはかなりノイズがかっていて、ささくれ立っているのだけれど、 それは聴いててあまり不快にならない種類のノイズである。 曲にもよるがほとんどの場面では耳をつんざくようなノイズではなく、コクのある、 ちょっと美味しそうなノイズとでも言おうか、そんなノイズがアルバム通して鳴らされている。

また、最近のローファイな音を志向しているアーティストの楽曲には、 音が中央に寄ってしまっているものが多いのだが、 その点、Klan Aileenの楽曲群にはそうした傾向は見られない。 音に広がりがあり、尚且つ、それが前面に押し出されているような印象を受ける。 この要因としてはメインギターがステレオ化されている事や、パンニングが上手くいっている事など色々考えられるが、 もしかしたらMS処理というものを行っていて、それが上手くいっているのが大きいかもしれない。 MS処理とは、通常の音楽の「左」「右」の信号を、「真ん中の音」と「両サイドの音」に分離して個別に処理をすることで、 中抜けを防止しながら音に広がりを出す処理である。また、この処理を行う事でコンプレッションをかけずとも、 いくらか音の迫力感をアップさせることが可能だ。彼らはこの手法を取り入れて、音楽に広がりと同時に、押しの強さと圧迫感を出しているのかもしれない。


さて、このアルバムの聴きどころをピックアップしていこう。 まずタイトルトラックの"Astroride"である。何かこの下北沢の内装が木で出来た古着屋であったり、 アメリカの西部~南部~中部の砂漠地帯の飲食店で流れてそうな曲である。聴いていると、まるでそれらの店に入って、 一時的に暑さを凌いで、涼んでいる時のような快適な気分になる。

2曲目の"On Your Mark"はアメリカの西部~南部~中部の荒野をオープンカーでドライブする時にとても合いそうな曲だ。 そしてサビでは、ディストーションギターがステレオの両サイドから、音壁を作って迫ってきて、 そこにドスの効いた吐き捨てるような挑発的なボーカルが入る。 このサビは聴いてて部屋で軽く暴れたくなるぐらいの興奮感と高揚感がある。 そして最後の大サビでは、今までだるそうに吐き捨てるように歌っていたボーカルが、突然ふっと天に召されるような歌い方をしていて、鳥肌が立つ。

3曲目の"Ante"は、僕がアメリカの西部のフリーウェイを走行する車に乗車していた時に、 その周囲を取り囲んだ、革ジャンを羽織り、ジーパンを履き、バンダナを巻き、サングラスをかけながらハーレーを走らせているマッチョなライダー達を想起させるような、 いかにもアメリカーンなロックである。この曲では松山亮 の吐き捨てるようなドスの効いたボーカルの格好良さが鮮明になる。 この曲のボーカルに関しては暴力的とさえ言えるカッコ良さがある。2曲目と同じく、聴いていると脳内興奮麻薬が分泌され、暴れたくなるような曲だ。


6曲目の"Losing His Sun"はこのアルバムのハイライトの一つだろう。 今までは吐き捨てるような歌い方をすることの多かったボーカルだが、 この曲での彼の歌い方は音が天に抜けていくような、神聖さと優しさを感じさせる歌い方をする。 そんな彼の歌い方と、綺麗なサビのメロディラインと、音の空間的な広がりが相まって、神々しささえ感じさせるサビとなっている。 また、サビの後では曲の雰囲気がフッと変わるようなメロディの捻りがあって、ちょっとした意外性も感じさせる。

9曲目"The Man I Left"もハイライトの一つになるだろう。またしてもアメリカの荒野をまったりのドライブしているかのような、 心地よさ、快適さ、サイケさを感じさせるAメロから始まり、サビに向けての溜めを作るようなBメロを経て、 サビで一気にその暴力性を全開にしてくる。3曲目の"Ante"と同じく、このサビの吐き捨てるような、ドスの効いた、 暴力的とさえ言えるボーカルの魅力が最高に出た曲で、聴いてるととても興奮する。 彼はこの手のカッコイイ歌い方をマスターしているようだ。 またサビが二つ終わった後にはプレ・シューゲーザー的な攻撃的なノイズの洪水が鳴らされ、 この単純明快なロックにおいてちょっとした違いを作っているように思う。

そしてこのアコースティックギター一本で弾き語る、最後のサイケフォーク風味の曲、"The Place To Come Back For People Who Left"が最高だ。 優しくて、心地良くて、神々しささえ感じさせる曲。散々暴れ回った後に、満足して、天使と共に成仏していくような画がイメージされる素晴らしい締めである。


巷ではロックの定義について、様々な水かけ論がされている。 ある人は実験精神を失わない態度だといい、ある人はアナーキーな態度であるといい、ある人は時代の代弁的なものを有するものだという。 Klan Aileenのロックの定義はきっともっと単純なものだ。 痛快で、カッコ良くて、そして時に全てを浄化するぐらい優しい。 このアルバム"Astroride"は、そんな彼らのロックへの考え方を具現化した、会心の一作であるように思う。

Reviewer's Rating : 8.5 / 10.0

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