ototoyのMiila and the Geeksのインタビューによると、Miila and the GeeksはLOVE AND HATESとしても活動するmoe(Vocal/Gt)、Ryota Komori (Sax)、Kaoru Ajima(Drums)の3ピースバンドである様だ。moeはパンクが好きで、サックスのRyota Komoriはジャズ、ドラムのKaoru Ajimaはハードロックが好きであるらしい。確かに各人の好みを踏まえて各パートの演奏を聴いていると、そんな各人の好みが反映されている気がしないでもない。
このバンドの音楽性を簡単に形容すれば、3ピースのベースレスの女性ボーカルもののローファイパンク、となるか。まるで拡声器越しに歌っているかのようなディストーションがかけられた、だるそうで、挑発的で、パンキッシュなmoeのボーカル、こちらを煽ってくるような、小馬鹿にしてくるような演奏をするRyota Komoriのサックス、チープな音で、キレと適切さのあるドラミングをするKaoru Ajimaのドラム、という編成。
このディストーションのかけられたささくれ立った各音を聴いているのは、決して心地の良いものではない。むしろ不快感すら感じる。おまけにサックスには常々小馬鹿にされている気がするし、moeのボーカルからは「あんまりやる気はありません。いや、全く無いって訳じゃないですけれどね」みたいなメッセージが表面的には発せられているように感じるが、それらのささくれだった音の不快感、音のチープさ、全体に漂う倦怠感は、この音楽の挑発性を増幅させる結果となっている。そんな挑発性がこの音楽のパンキッシュなカッコ良さを生み出すのにあたり、大きな役割を果たしているように思う。かなり危ういバランスの上に成り立つカッコ良さであるが、そんな危うささえもこの音楽の魅力である。
聴きどころと言えば一曲目の"Worst Word"と三曲目の"Cigarette & Water"になるか。"Worst Word"はやかんの中の水が沸騰した時の音のような、シンセの効果音がとても挑発的で、かつ、嵌っていてカッコいい。そして2分51秒あたりからのディストーションギターが流れる箇所が扇情的で、興奮する。ライブであったらここで「hoooo!」とか言っちゃっいそう。三曲目の"Cigarette & Water"はノリノリでぶっ壊れている感じがとてもカッコいい。リズムに乗せて、挑発的に韻を踏んでいくmoeのボーカルパートが二つ終わると、一気にリズムが加速し、ディストーションギターをバックにサックスが暴れ回り、そして最後は皆で一緒にぶっ壊れるようにして終わる。パンクバンドとしてのダイナミズムを感じさせる一曲である。
音楽的には好きであるのだが、アルバムとしての評価は微妙になる。このアルバムの一番の難点は、一枚聴こうとすると疲れてしまう事である。僕はもうこのアルバムの六曲目あたりで、既に疲れてしまった。その主な要因としては、音がアルバム通してささくれ立っててて、ローファイであることが挙げられる。これもこれでDIY感やローファイロック的なカッコ良さが出ていていいのだが、やはりずっと聴いていると、もう少し気持ちの良いに音にならないかな、という気にはさせる。聴き疲れるもう一つの要因として、倦怠感漂う雰囲気がアルバム通して続くのが挙げられるが、この倦怠感に関しては、この音楽の魅力にもなっている一つなので、致し方無いのだろうと思う。
またエンジニアリングに関して言及すると、全体的に音に広がりが無く、モノっぽい感じがするのが、少し残念なように思う。音が中央に寄り気味であるので、流しててもあまり空間を支配が出来ない。その点において、なんとなく寂しさを感じるのだ。音にステレオ感、広がりを持たせることで、音でもっと空間を支配出来るようになるんじゃないかと思う。もっともこのモノっぽさが味だと言われれば、この音楽的スタイルからして、納得は出来る。
Cigarette & WaterのMVのバイアスのせいからか、何となく晴れた日曜日に家で大きめの音量で聴くのに適していそうなアルバムである。このアルバム、"New Age"はアルバム通して聴くと、聴き疲れしてしまうが、それでも彼女らのルードさ、挑発的なカッコ良さが封じ込められていて、好感の持てるパンクバンドである、との印象を持つ事の出来る一枚である。