このFarbeの"Colours"という曲を聴いてから、Amazonでこの商品を探してたら、なんと新品で399円で売っていた。一体この価格設定はどういうことなのだろうか。何か曰く付きなのだろうか、と勘繰ったが、購入後も傷や破損などは見当たらない。在庫処理のため、或いは他社との価格競争の結果としてここまで価格が下げられているのだろうか。謎である。まあそんなこんなで僕は極めて安い価格で、このアルバムを手に入れる事が出来、聴くことになったのだが、これがもう値段と不釣り合いなぐらい良い。
iloudの彼らへのインタビューページによると、Farbeは自身が運営するPLUSレーベル、そしてパーティーを軸に活動をしているテクノ・クリエイター/DJのシンニシムラと、テクノを初めとした様々なジャンルのトラックを作るチザワキュー(Chizawa Q)とのユニットであるようだ。そしてこのアルバムには透明感のある歌声が印象的な本田みちよがヴォーカリストとして参加している。また、Farbe(ファーブ)はドイツ語で"色"を示す言葉であるようだ。シンニシムラは同インタビューで「このユニットで、いろいろなことができるという意味で“farbe(色)”という名前にしたんです。」と答えている。
自分がSoundCloudで聴いたFarbeの"Colours"という曲は、朝に合いそうな、爽やかで明るい印象の曲であったので、アルバム全体もそういうイメージであるのかな、と思いきや、このアルバムからは夜の空気が色濃く出ている。一曲目から終わりの方まで、都会の夜を想起させるような、本田みちよの透明感のあるヴォーカルを中心に据えた歌モノハウスが続く。そして最後から二曲目に、まるで夜が明けて、朝日が差し込むようにタイトルトラックである"Colours"が流される。まるで一つのクラブのオールナイトパーティーが封じ込められたかのようなアルバムである。
全体通して音はとても良い。キックの音は圧迫感があるし、シンセの連続音一つとっても迫力がある。そしてそんな音で作り込まれたハウス色の強いトラックからは、都会的なファンシーさや洗練された感じが良く出ている。そしてそんなトラックの上に、本田みちよの透明感のあるチルな歌声が乗るのだからたまらない。また、全体として都心の洒落た街に漂う空虚感を感じるのである。その空虚感は決して否定的な空虚感ではなく、しばらく浸っていたい、と思う様な気持ちの良い空虚感だ。ジャンルは違うものの、その点においては日本の3ピースロックバンドであるPetrolzあたりと共通したものを感じる。
聴きどころとしては二曲目の"Silence"、五曲目の"DT"、そして11曲目の"Colors"が挙げられる。"Silence"では、一定のメロディの中において、途中でふわりと浮遊するようなヴォーカルとメロディラインが魅力的である。この曲では、本田みちよの透明感のあるヴォーカルの魅力が存分に出ている。まるで聴く者を都会の夜のクラブのパーティーに誘うかのようなフックのある曲である。またアルバムにおけるブレークのような役割を果たす、五曲目の"DT"も、アブストラクトで、未来的で、都会の夜の雰囲気に浸れるような曲である。 砂原良徳の"Love Beat"というアルバムの音楽性を想起させるような曲である。そして11曲目の"Colours"は前述の通り、夜が終わり、眩い朝の光が差し込んでくるかのような、オールナイトパーディーの夜明けを感じさせる曲である。このアルバムにおいてこの曲の放つ光は絶対的で、まるで太陽のよう。苗場の上手い空気の中で行われるフジロックのオールナイトパーティーの夜明けにかかったら、絶対に気持ちの良い曲であると思う。
聴いていてFarbeのオールナイトパーティーに行ってみたいな、と思う出来である。だけど彼らは今活動している様子は無い。残念だ。でも彼らは彼らのオールナイトパーティーを何度でも繰り返し体験出来るように、このアルバムにその一端を封じ込めていってくれたように思うのである。ああ、素晴らしきかなレコーディング技術。Farbeの"Colours"は彼らのオールナイトパーティーへの愛が封じ込められているアルバムであるように思う。