farbe-colours-2artwork-200_200-artwork-

フレネシ

"ゲンダイ"

乙女音楽研究社, 2012

dw9HnBvdgHQ

このCDのレジに持っていく時、若干の気恥ずかしさがあった。なぜなら、ジャケが完全に萌え系だったからだ。レジの女性の方も心無しか「へー、この人のフレネシ聴くんだー。意外と可愛い趣味してるんですねー」という微笑を浮かべていたような気がした。まあ、どうってことはないんだが、その気恥かしさはまるで中学生がエロ本を店のレジに持っていく時に生じる気恥ずかしさであったような気がして、なんだか懐かしい気分になったものだ。

くだらない話はここまでにして、本題に入ろう。フレネシのSoundCloudのプロフィールによると、8歳でささやき声しか出なくなり、20才の頃より、大学卒業までの2年間に50曲余りを作曲。22歳よりソロ名義を「フレネシ」とし、「ささやいていても硬派」な楽曲を多数作曲しているらしい。既にその作曲能力は各方面から評価されていて、坂本龍一氏主宰の今は無きミュージックサイト Musictreeでは、LiveBrain賞、ONKYO賞など、多数の賞を獲得している。そして2009年6月に乙女音楽研究社からリリースした初のフル・アルバム、「キュプラ」がHMVインディーズチャート1位、カレッジチャート1位を獲得し、大きな注目を集める事になった。尚、作曲のみならず、CDジャケット、PVのアニメーション原画に至るまで、作品の全てを自ら手がけているようだ。


囁き声しか出なくなった、などどプロフィールに書いてあったが、本当にそう思えるぐらい全曲囁き声で歌われている。彼女の体内に自らの歌声を囁き声にするエフェクターが搭載されているかのようだ。時折、その囁き声は曲の中に消え入ってしまいそうにも思える。乙女系だから、恥じらいを醸し出しそうとしているのだろうか。

またフレネシのボーカルは力み要素が少ない。だからこその心地良さが発生していて、それがこのヴォーカルの魅力を引き出しているように思う。また、微妙な部分だが、ヴォーカルの声は音程にジャストではなく、若干の外しがある。サイケフォークなどでよく聴かれるような音の外し方だ。そのヴォーカルの良い意味での外しが、乙女的な魅力を引き出し、中毒性を生み出しているように思うのである。この点においては、相対性理論のやくしまるえつこのヴォーカルに似たものを感じる。このヴォーカルに関しては素直に可愛いと感じると同時に、その乙女系ヴォーカルに対しての研究熱心さと、その完成度の高さに対して、ももちこと嗣永桃子に払っている類の敬意を払うのである。

特筆すべきは、彼女のソングラインティング能力の高さである。リスナーを飽きさせない音の入れ方、曲に違いをもたらす調の変化のさせ方で、ポップミュージックとして隙の無い、フックのある楽曲を量産しているのである。そんなトラックに彼女のその完成度の高い乙女系のヴォーカルが入るのだから、良くないはずがない。アルバム通してみても、キラーチューンレベルの曲がずらりと並ぶ。アルバムの再生と同時にスピーカーから弾けるように音が飛び出してきて、持ち前のソングライティング、キレと勢いのある乙女系ボーカルで、あっという間に自分のハートを鷲掴みにする「地球空洞説」、杏窪彌(アンアミン)の様な中華系オリエンタルな可愛さのあるタイトルトラックの「ゲンダイ」と「ピュアシャンプー」、リバーブがかったチルな音像の中で可愛くセクシーに歌うシティポップと現在のアイドルポップを混ぜ合わせたような「成仏させてよ」、倦怠感と乙女感と甘酸っぱい高揚感のある「レイテンシーガール」などなど、この通り挙げ出せばキリがないという状態だ。


少し気になるのは、ずーっと囁き声で歌っているので、喉を変になったりしないのかな、とこちらに思わせるところがある事だ。もちろん、レコーディングは一気にやっているわけではないのだろうから、心配する必要は無いんだろうが、解っていてもアルバムの後半部分になると、なんだか彼女の喉が心配になってきてしまうのだ。まあどういう形であるにせよ、自分が気持ち良いと歌い方を大事にしてほしいな、と思う。あらゆる身体操作は「気持ち良い」が正しい、と僕は思っている。

僕は近年までアイドルというものにウンザリしていた人間の一人だ。音楽的にも好感を持てなかったし、コンテンツが良くなくても大々的に宣伝すれば売れるというレコード会社のやり方も好きでなかったし、一人に沢山の同じCDを買わせるような一部の商売のやり方にも疑問を持たざるを得なかった。ただここに来てコアリスナーも認めるようなアイドル、またはアイドル的な楽曲をやるアーティストが続々と出現してきているように思えるのだ。ももいろクローバーZ禁断の多数決Sayoko-daisyなどなど、これはきっと日本にだけ見られている潮流だろうと思う。フレネシもそんなアーティストの一人に数えられるのかもしれない。もっとも彼女の創り出しているアイドル像は、既存のアイドル像とは随分違い、プロデューサーに飼われている感じがせず、あらゆる事を自分でやっていて、音楽的にも本格派で、顔を出さない恥ずかしがり屋さんだが。

Reviewer's Rating : 7.7 / 10.0

<< July Skies - "The Weather Clock"

Farbe - "Colours" >>