frenesi-gendai-200_178.pngartwork-200_178-artwork-

July Skies

"The Weather Clock"

Make Mine Music, 2008

僕は昔、フランスイギリスに旅行に行った事がある。行く前はフランスの方がイギリスより美しいところなのだろうな、と思っていたが、両方行った結果、僕はイギリスの方が気に入った。都市部では重厚で歴史のある街並みが現代的なデザインと融合していて、何とも表現しがたい魅力のあるところだった。そしてその田舎の方に行くと、イギリスらしい曇り空の下で、青々とした緑の広がる田園風景が広がっているのだ。July SkiesのThe Weather Clockを聴くと、明け方の、少し霧がかった、その田園風景を思い出す。


July Skiesは1997年よりイギリスの中部に位置するウェスト・ミッドランズを拠点として活動する、Antony Hardingによって始められたプロジェクトだ。このプロジェクトはEpic 45というポストロックバンドのBenjamin T HoltonとRobert Gloverがしばしば手助けしているそうな。July Skiesはこれまで4枚のアルバムをリリースしていて、その内の三枚はMake Mine Musicという主にポストロック、アンビエント、エレクトロニカを中心にリリースしていたレーベルから出している。このレーベル、July Skiesの他にはEpic45, Piano Magic, Library Tapes, Manualなどのリリースがあり、この分野のレーベルとしてはなかなか良質であったのだが、残念ながらこのレーベル、2011年を最後に閉鎖されてしまった。しかしBandCampから、このレーベルのコンピレーションが無料でダウンロードできるので、それを聴けばその全てとは言わないが、大体どのようなレーベルであったのかは把握出来ると思う。


さて、アルバム内容に入ろう。午前2時42分を告げる、女性の報じる時報から始まる、このアルバム。リバーブが深くかかった中で、聴いていると数々のまばゆい光の球々が見えるようなギターの音色、そこに純朴な歌声が響く。聴いていると、意識が遠くの方に行き、明け方の、少し霧がかった、青々とした田園風景が思い浮かぶのだ。その深くリバーブがかったアンビエントで、耽美的な音像は後期Slowdiveを想い起さずにはいられない。


アルバムとしてはインストがほとんどで、そこにちらほら歌モノの曲が入るといった展開。アルバムの全体の展開に派手さは無いし、そんなに起伏があるわけでもない。ただ延々と前述のような風景と効能がもたらされる音楽が鳴らされる。ただそれでも、アルバムとしての起承転結はちゃんと作られていて、アルバム通してのテーマも一貫している。また、アルバム全体の長さも37分というコンパクトサイズであるので、一枚サクっと聴ける。それらの意味ではコンセプト・アルバムとして、高い完成度を誇っていると言えるだろう。


特に素晴らしいのが、アルバム終盤にOne Morning In Mayという曲だ。リバーブがかった素朴な美しい音色を出すギターから始まり、そこAntony Hardingのとても無垢な歌声が入り、それと同時に入ってくる天に召すような高いキーのパッドが入るところで、もうやられる。光が出てきはじめた、霧がかった明け方のイギリスの田園風景のその湿り気、涼しさまでもが感じられるような、とても気持ちの良い綺麗な一曲だ。


これは向き合って聴く音楽ではなく、自分の過ごす明け方の空気感をより気持ち良いものに変えてくれるようなBGM的な音楽だ。そんな風に聴き流しつつも、たまにその美しい音色に注意を惹かれてしまう、そんなアルバム。例えば欧州チャンピオンズリーグの深夜放送を見た後の明け方に、このアルバムを聴くと、とても気持ちが良い。多分、日本での一番の聴き時はその気候の観点から見て5月~6月だろう。しかし他の季節の明け方に聴いても十分にマッチする。


このアルバムとは随分長い期間付き合ってきているので、評点などというものを付けるのがおこがましく感じる。それほどこのアルバムは自分の生活に溶け込んでいるアルバムなのだ。July Skiesはイギリスの明け方の青々とした田園風景の美しさを描写した、コンパクトで、実に耽美的なアルバムである。きっとあなたの明け方の生活の良き友となってくれるだろう。

Reviewer's Rating : 8.2 / 10.0

<< LLLL - "Paradice"

フレネシ - "ゲンダイ" >>