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Seiho

"ABSTRAKTSEX"

Day Tripper Records, 2013

僕はTwitterでSeihoをフォローさせて頂いているのだけれど、 何か彼は一種の図抜けたローカルヒーローのような祀り上げられ方をされていたのを覚えている。 もちろんそれは彼のリツイートを通して知った話なので、 やはり彼の行ったライブに対しての肯定的な反応がずらり並べられがちにはなるのだが、 それでもそれらの肯定的な反応の数々は決してお世辞じみたものではなく、 彼のライブに心から感動し、大きな満足を得た結果の賛辞であるように思えた。

それからまた少し時が経つと、ネットの各所でSeihoの話題が取り上げられるようなった。 今まで彼の話を一切することのなかった人が沢山、彼の事を話し始めたのだ。「一体何があったのだろう?」と僕は思った。 そしてそれから遠くない日に某CDショップにて、彼のアルバムが大きく取り上げられたのを見た。 「なるほど、こういう事だったか」と僕は思った。そして僕はこのアルバムをその場で試聴した。 そして二分~三分と経たない内に、そのCDをレジカウンターに持って行った。 僕は再びこう思っていた。「なるほど、こういう事だったか」と。


Idle Momentsの彼の紹介ページによると Seihoは音楽と映像の垣根を越えて活躍するマルチアーティストであるらしい。 彼は自らDay Tripper Recoedsを立ち上げて、 1st album「MERCURY」をリリース。その他にもあのクラブミュージック畑の大物がこぞってくる音楽フェス、 "SonarSound"にも、2012年の東京公演で出演している。 その上、MTVの2013年注目の若手プロデューサー7人にも選ばれているそうだ。 なるほど、既に彼は相当勢いのある人であるようだ。

そして今作、彼の2nd Albumにあたる「ABSTRAKTSEX」を聴いた限り、 その音楽性は都会の派手な夜を感じさせるような、セクシーで、チルで、アブストラクトで、 遊び心のあるクラブミュージックという印象だ。 (「ポストダブステップ」の要素も入っている、とも言われているが、僕にはそのジャンルをどこでどう判別するのかが、いまいち良くわからない。)

初めの二曲は聴く者をあっという間に惹きつけるぐらいの魅力がある。 一曲目の"I Remember RHEIMS"は、スモーキーな雰囲気の中で、気だるく鳴らされるピアノから始まり、その後、本編が始まる。 スローなビートの隙間が、テクニカルなエレクトリックベース、リードシンセ、リズミカルに聴衆を煽るような男性の声と、 それにコーラスを被せる女性の声、キーが高低に極端にピッチシフトされている声などで、埋められながら曲が展開していく。 二曲目の"Evning (with Phoenix Troy)"になると、一曲目と似たような作りトラックに、 アブストラクトでお洒落なシンセ音によって奏でられるムーディーなメロディが入り、 そこにテクニカルなベースと共に、黒人ラッパーのムーディーで、温もりのあるラップが入る。 この二曲のフックはとても強く、それらは僕をこのCDをレジに持って行かせるぐらいの魅力があった。

全体として低音がとても良く効いている上に、音がシャッキリしている。一つ一つの音のキレがいい。何かこう、音に電圧がかかっているのを感じる。 いわゆる「音質が良い」と表現したくなるような魅力的な音である。 また、スローなビートの隙間に、本当に色んな音が入っているのだが、決して混沌とはしていない。 一枚通じて沢山の音がとても良く整理されて並べられていて、とてもスッキリしている印象を受ける。 この一つ一つの音の良さと、音が整理された様、そしてこのスローでチルでアブストラクトな様は、砂原良徳を彷彿とさせる。


少し残念に思うのは、どうも初めの二曲以降に、この二曲に匹敵するぐらいフックを持つ曲が無かった事である。 初めの二曲以降の曲のクオリティは決して低く無く、むしろ高い。ライブに生えそうな曲が並んでる。 あえて言えば、拍手をサンプリングした音でビートを刻み、抑揚の効いたシンセで盛り上げる9曲目 の"Clipping Music"が印象的であったが、 どうも初めの二曲以降に目立った山場がないようにも感じてしまうのである。

また、様々な音をビートの隙間に入れることで、刺激的な展開は作ってはいるのだが、 主旋律が単調になってしまっている箇所が多く、その点に置いて若干の退屈さを感じてしまった。 音楽の実験的な部分で遊ぶ事に夢中になってしまい、メロディの作りが単調になってしまっている感があるのである。 これは現在の実験的な電子音楽を作っている人たちが陥りやすい罠であると思う。 昔とある著名な実験色の強い音楽を作っているエレクトロニカアーティストが、 このような事を言っていたのを思い出す。 「結局のところ良いコード進行と、良い音の素材があれば、良いものが出来るんだ。道を逸れる事がない。そうでない曲にはあまり伸びしろが無いんだ。」

しかしそれらを差し引いたって、このアルバムのクオリティは、 Seihoの名を世に広く知らしめる事の出来るぐらいのクオリティを誇っている。 全体として夜の代官山とか表参道あたりの小洒落た街を想い起させるような、 都会的で、お洒落で、セクシーで、アブストラクトで、遊び心のあるアルバムである。(彼は大阪の人であるようだが。) 是非是非、一度その評判の高いライブに出向いて、この音楽を大音量で、全身に浴びてみたいところだ。

Reviewer's Rating : 7.8 / 10.0

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