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Nuojuva

"Valot Kaukaa"

Preservation, 2012

このアルバムを手に入れたのは今年の3月あたり、 ちょうど冬が終わる頃だったろうか。とても良い冬の空気感、 そして北国の地域性を感じるアルバムであったので、 僕は「ああ、このアルバムを沢山聴く季節を逃してしまったな」と思い、自分の出足の遅さを悔やんだ。 そして春が来て、夏が過ぎ、秋が訪れ、再び冬になりはじめて、また僕はこのアルバムを再生しはじめた。

Nuojuvaはフィンランドのヘルシンキに住むミュージシャン、 Olli Aarniのソロプロジェクトである。以前、彼はOus Malという名義で活動していたようだが、 このアルバム、Valot Kaukaaのリリースを機に、名義をNuojuvaに変更したようだ。

その音楽性は北欧の地域性を感じさせる、アンビエント・ドローンを基調とした、実験性のある、歌モノであるという感じだ。 とはいうものの、歌はそんなに中心には来ない。歌はまるで、鳴らされる楽器の一つのように扱われている。 リバーブが深くかけられた音像の中に、まるでカセットテープを通したかのような、ローファイさと温かみを感じさせる数々の音が鳴らされる。 ピアノ、フルート、ストリングス、ハープ、などの生楽器の音、 アナログラジオのチューニングを合わせているような音、LPノイズの音、 ガラスを金属で軽く叩くような音、鳥のさえずる音、風鈴の音、などなど、使われている楽器、音は実に多様である。 そこにOlli Aarniの気だるさと、純朴さを感じさせるボーカルと、時々女性のコーラスが入る。 なんとなくだが、彼の声質はNeon Indianのボーカルのそれと似ているような気がする。

そうして生み出された音楽は、北国の寒い寒い季節に、 暖かい家の中に籠ってるような感覚になるホームメイドな音楽だ。 違う畑の音楽になるが、Jan Jelenikの"Loop-finding-jazz-records"を聴いてる時の、 部屋に籠りたくなるような感覚を、もっと北のものにしたような感覚と、 Joan of arcの"the gap"のようなまどろむ感覚、ホームメイドな感覚を合わせ、それをカセットテープに録ったような感じだ。

聴きどころは5曲目の"piirtaa"か。 世に出回っているアンビエント・ドローンのように、その場をゆらりゆらりと漂うようにして曲が展開され、 曲構成においてのAメロ→サビのようなメリハリがあまりないこのアルバムにおいては、 メリハリがある曲である。そしてそのサビにおいて、明らかに音の広がりと輝きがある。 ガラスを金属で軽く叩くような音、ちょちょ切れた電子音が鳴らされる中、 ギターとは一味違う音色を出す弦楽器のアルペジオが主旋律を奏で、そこにOlli Aarniのボソボソとしたボーカルが入る。 そして煌びやかなウィンドチャイムと共に、女性のコーラスが入るサビの部分で、自分の心は天に召す。

この類の音楽はガッツリ対峙して聴くと、ダレてくる音楽であると思うので、 BGMのようにして聴き流すのがいいだろう。Nuojuvaは北の地から、 そこの地域の真っ白で、気持ちのいいぐらい寒い外の空気感と、そこに立つ家の中の温もりを感じさせる、アンビエントで、ドローンで、ローファイで、実験的な、 歌モノ作品を届けてくれている。そして僕は部屋に籠って、このアルバムを再生し、 そんな北の地の空気感に浸りながら、冬を越すのである。

Reviewer's Rating : 7.1 / 10.0

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