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Trentemøller

"Lost"

In My Room, 2013

Trentemøller(トレントモラー)は、デンマークのボアディングボー出身であるAnders Trentemøllerのソロ・プロジェクトである。 これまでにライブアルバムを含む5枚のアルバムを出していて、この"Lost"はその3作目にあたる。 ちなみにその5枚の内、3枚は2013年にリリースされている。今年はその活動を活発化させているようだ。

今作"Lost"には、様々なゲストが参加している。これまで15枚のアルバムのリリースをしている、 アメリカのインディーロックのベテランであるLow、The Drumsのジョニー・ピアーズ、 そしてBlonde Redheadのボーカルであるカズ・マキノなどなど、 インディーロックに精通したものからすれば、その顔ぶれは錚々たるものだ。

その音楽性は曲によって変わるが、全体としてはテクノ、トリップホップ、インダストリアル、ポストロック、 ポップスの要素を持っていると言えるだろう。曲によってテクノの要素が強くなったり、 トリップホップの要素が強くなったり、ロックの要素が強くなったりする。

また、メインボーカルは少なくとも4人はいると思われる。 彼らが曲ごとにローテーションして歌っているようだ。 一人目の女性ボーカルはブルガリアの民謡のような歌い方をするボーカルだ。 二人目の女性ボーカルは湿っぽく、なまめかしく、エロスも感じさせる、イギリスっぽいボーカルである。 三人目は同じく湿っぽさ、なまめかしさを感じさせる男性ボーカル。 もう一人は素朴で、メランコリックで、ダークで綺麗な女性ボーカルだ。 彼女がBlonde Redheadのカズ・マキノである事は判別が付く。


さてアルバムを聴いてみよう。オープニングトラックの"The Dream"では、ダークさと美しさを兼ね備えたベース、 がボーンボーンと鳴り、その上にブルガリアの民謡のような、 綺麗な女性ボーカルとダビングされたコーラスが入る。 そして次にメランコリックで夢見心地な鉄琴、ギターが入り、サビの部分では祝福的な男性のコーラスが曲を盛り立てる。 最後の部分の抽象的で、壮大で、エナジティックなギターはSigur Rósすらも想起させる。 このスローで音数の少ない、音響の完成された曲は、自分をこのアルバムに惹き込むに十分な魅力がある。

四曲目の"Tandy Tongue"はまるでイギリスのロンドンのSOHOという歓楽街の夜を想起させるような、 ダークで、湿っぽく、美しい、物悲しくて艶めかしいエロスを感じさせる曲である。 五曲目も"Trails"も四曲目の"Tandy Tongue"と同じ地域性を感じさせる曲ではあるが、より硬質で尖っていてロックである。 そして途中からアルぺジエーターのかけられたシンセのパキパキ、ペキペキ、ピコピコと鳴る連続音が曲の雰囲気をガラリと変え、 聴いていると夜の都会の道路をドライブしているような情景が思い浮かんでくる。

七曲目は"River of Life"はアルバムの中での一つのクライマックスと言っていいかもしれない。 この曲ではテクノ、ポストロック、ロックの要素が強くなる。 この曲の雰囲気は、Blonde Redheadのような硬質感、焦燥感、物哀しさがある。 先の五曲目と同じようなアルぺジエイターのかけられたシンセが鳴らされ、疾走感を感じさせる硬質なビートの上で、 リバーブのかけられた美しい女性ボーカルが、まるで駆け抜けていくようにしてサビを歌う。 そしてサビが終わると、転調が行われ、曲調が明るくなり、シンセのストリングスが入って、壮大さを感じさせる展開になる。

九曲目はPortishead風のトリップホップを、BlodeRedheadのカズ・マキノの女性ボーカルでやったような曲。 透明感のある音響の中、Blonde Redheadさながらのメランコリックで、ダークで、美しいメロディラインで、 素朴で、退廃的なカズ・マキノが独唱する。

自分の一番のお気に入りの曲は、最後の曲の"Hazed”である。 抽象的でうっすらとノイズがかった間延びしたシンセと、高低のストリングス、 電気的なシグナルを送っているかのような音で、北の広い寒空の下で、ぽつんと一台、 車でドライブしているような場面を想起させるようなイントロから始まる。 そしてストリングス、抽象的で間延びしたギター、シンセパッドを駆使し、曲を大きく深呼吸させつつ、 音空間を広げたり狭めたりしながら、一つ目のクライマックスに向かって、 大きく波打つようにして盛り上げていく。次にシンセのパキパキとしたビートを駆使して、 もう一つのクライマックスまで持っていき、最後にはまるで北の壮大な寒空に溶け込んでいくように終わっていく曲。 この曲に関しては素晴らしいの一言だ。


聴いててすごくロンドンっぽさを感じる事が多いのは、 このAnders Trentemøllerが"ロンドンに旅行した際に訪れたクラブでトリップホップやジャングルといったジャンルと出会い衝撃を受け"たからだろうか。 (MusikiのTrentemøllerページより)

また彼らはストリングス系の音、抽象的な音を効果的に使って、サビの無い場所で。 壮大さを演出するのが上手い。この面ではナンバーガールやSigur Rósを想起させる。 ナンバーガールと聞くと意外に思われるかもしれないが、彼らはサビの後、及びサビではない場所で、 抽象的なギター音を使って、一つの大きな風景が思い浮かばせるような展開を作るのが、上手だった。 まあ、このトレントモラーとは少し距離のある音楽ではあるが。

全体の質は高い。ミックス面では、様々な音が、透明度の高い音響の中で、 良く整理されている。音が互いに干渉し合っていない。 そしてこのヒンヤリとしているが、ほんのりと温もりを感じるような音響からは、やはり北欧の地域性を感じさせる。 また一つ一つの楽曲の質は高く、アルバム一枚としての起承転結もちゃんと作られている。 キラーチューンというキラーチューンが無いため、どこか少しのインパクトのかける作品であるようにも感じるが、 この作品にそうしたインパクトのを求めるのも何か野暮なように思う。 この若干抑えの効いた感じが、トレントモラーというキャラクターのように思えるからだ。

トレントモラーのロストは、Blonde Redheadのような退廃的なロックが好きな人はもちろん、 後期Slowdiveのようなミニマルで音響の完成度の高い音楽や、 一つ一つの音が繊細に作られた北欧っぽいビートミュージック、 イギリスのロンドンの夜の歓楽街を想起させるような音楽が好きな人、さらにはクラシックやアンビエントの方面の人からも、良い反応をもらえるアルバムなのではないかと思う。

Reviewer's Rating : 7.4 / 10.0

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