昔、Squarepusherが2004年にリリースした、"Ultravisitor"というアルバムを聴いていて、 とある音楽プランを思い立った。このように生音と電子音楽のいいところどりをした刺激的な音楽を、 一人の人間によってではなく、複数の人間のセッションの化学反応をベースに作ったら、 とても面白い音楽が出来るんじゃないかと。しかし、その自分のアイディアに近い音楽は、既に試みられていたようだ。 しかも"Ultravisitor"がリリースされるよりも前に。
Wikipediaによると、東京ザヴィヌルバッハは坪口昌恭(キーボード・プログラミング・シンセサイザー)と 菊池成孔(アルト・テナーサックス、CDJ)のユニットであるようだ。 そしてリズム隊には自動変奏シーケンスソフト“M”が使用されているとある。
自分はこの自動変奏シーケンスソフト"M"の事が気になって、色々調べてみた。 Chaos理論とComputer Musicによると、 これはコンピューターに一定の周期で繰り返される音楽要素(リズム、フレーズ)を演奏させて、 ここに演奏者によってリアルタイムで変更を加えて、音楽情報を生成していく代物らしい。 つまりコンピューター自体には感官と、知覚された情報に対する反応機能は搭載されておらず、 あくまで人間の感官と操作を頼りにして、音楽情報を変更していく代物であるようだ。
そんな"M"のドラムを土台に、創り出された音楽は、大変刺激的なものである。 "M"によって生み出される軽妙で、流れを適切に読んだ、創造性溢れるビートは、人間が叩いているようにしか聴こえない。 (もっとも打ち込みっぽいビートを意図的に作りだそうとしている曲では、 打ち込みっぽく演奏されている。)その"M"のリズムに、坪口昌恭のJazzyで、 抽象的で、煌びやかな音を奏でるキーボード、菊池成孔の色気のあるサックスが鳴り響き、 そこにキュッキュッと鳴るスクラッチ音、カセットテープの頭出しをする時に鳴るようなチュルチュルという音、 ちょちょ切れたレーザービームが出てるような音、などなど、実験性の富んだ様々な効果音が入る。 このJazzyでFusionっぽい即興的な音楽は、電子的でありながらも、生物的な躍動感がある。 音楽的にとても刺激的であり、聴いていると自分の脳にある音楽細胞が喜び出し、良き脳汁が湧き出てくるのである。
これらの音楽は結局のところ、この二人によって奏でられているわけだが、 その音楽からは、そこには「機械」という三人目のメンバーが存在しているようにも感じられる。 人間のミュージシャン二人と、感官と外的刺激に対する反応機能を搭載した機械が、 三人でジャムってるような錯覚を起こさせるのである。
世界にはMats & MorgenやSquarepusherやら生演奏と電子音楽を融合させたような即興的かつ刺激的な音楽を奏でる人たちが沢山いるけれど、 この日本という足元にも東京ザヴィヌルバッハがいる。このリリースの後、彼らは沢山のリリースをしているが、 ここからどのように彼らの音楽性が変化していったのか、気になるところである。