shinkawa_tadasartwork-200_194-artwork-

LLLL

"Faithful"

PROGRESSIVE FOrM, 2015

cuUiJJs9Pew

LLLLのクオリティは世界で通用するレベルに達していると思う。音質は良いし、比較的新しい電子音楽の曲の展開技法をふんだんに盛り込み、それをか細く、愛らしく魅力的な女性ヴォーカルと共にポップに聴かせられる技量がある。おまけに彼らの音楽には大きなハコに合いそうな威風堂々した佇まいがあり、時に支配的にすら思わせるオーラを漂わせる。何となくその在り様からは、Radioheadの在り様を想起させる。そんなクラスのアーティストを想起させてしまうぐらいのクオリティを、彼らは持っている。


自身のリリースしたあらゆる小さな音源を集めて作った割には、アルバムとしての一体感、起承転結のあったデビューアルバム「Paradice」から約9カ月、LLLLは自身のセカンドアルバム「Faithful」をリリースした。そのジャケからは純愛性とエロさが漂っている。ジャケットにはベットに横になりながら、目を瞑り、男女の恋を妄想している女性がいて、ジャケットを開くと、エロ可愛い恰好した女性がピンクがかった銀河によって照らされている。、そしてジャケットのケースからCDを外すとびっくり、そこには女性が裸で浴槽の様な所で丸まっていて、物想いにふけっている。そんなジャケからは恋愛がテーマにされているとの印象を受ける。そして事実、恋愛をテーマにした曲が多い。

このアルバムの特徴としては、日本語詞の曲が多い事が挙げられる。三曲目のストレートで直球な恋愛曲「All I See」、カセットを早回しに再生した様な「Sync」、都会的な静寂が入る部分気持ちの良い「Yume No Hazama」がそれらだ。英詞の曲を作って来たLLLLにとって、日本語詞は初の試みでないかと思う。中でも三曲目の「All I See」はこのアルバムの一つの象徴と言えるかもしれない。歌詞は「愛しています あなたの事だけ 忘れる事の無い 夢の中で今も あなたの残像が 現れては消え・・・」などと言った具合で、恋愛状態にある女性をストレートに想起させる。ストレートな恋愛曲なのだが、ここまであからさまであると、恋愛という快楽に浸りながらも、その恋愛という現象をその外側から眺めていて、それを少し面白可笑しく思っている様な印象も受ける。


このアルバムは、この曲のような夢見心地な曲でいっぱいだ。それだけでなく、ライブ映えするものが多い。その中で抜群の光を放っているのが、二曲目の「Blue」だ。Cocteau TwinsManualが出すようなギターの音色と共に、あのか細い、愛らしく魅力的な女性ヴォーカルが入る。そしてこのサビの浮遊感と高揚感と言ったら! 何か新鮮で綺麗な風のようなものが、自分を浮き上がらせ、どこかに連れて行ってしまうような、そんなサビだ。90年代の歌モノのロック方面で、商業的成功をプロモーションが先行した形ではなく、自らの音楽的価値によって目指そうとしているバンドのキラーチューン並の、本物のキラーチューンを久々に聴いた!という印象だ。

その次に印象的であったのが四曲目の「Holy Lust」だ。この曲を先々週あたり聴いた時、僕は折角の週末にも関わらず、風邪を引いていてグッタリしていたのだが、少なくともそんな病んだ僕を興奮させ、部屋の中で少し暴れさせるぐらいには高揚感がある。イントロが終わり、Aメロでリバーブがかった綺麗な女性ヴォーカルが、太いシンセベースと共に高揚感とドリーミーさを生みだし後、そのシンセベースがうねりながら下降していく部分に惹き込まれる。思えば生音系のベースに惹き込まれた経験は数あれど、シンセベースというものにここまで惹き込まれたのは初めてかもしれない。この曲ではそんな太いシンセベースがウネウネと動いていて、鼻血が出そうになる。

6曲目の「Dive」も注目に値する。この曲もシンセベースの音がボンボン出てて、それが細かく刻まれており、スピード感がある。Aメロの転調、サビのメロディの転調にフックがあり、サビになるとシンセの洪水と共に、マイナーキー基調で女性ヴォーカルが歌うところは非常にクールだ。最近聴いた中ではTrentemollerの「River of Life」という曲を想起させる。大変ライブ映えしそうな曲だ。


この6曲目までは思わず最高、と言ってしまいたくなるぐらいのは素晴らしい出来だ。前作と比べて転調を巧みに使ってフックが出している曲が多い。ただどうも、ここまでの出来と比べると、それ以降の印象は薄い。あえて言うのならば、映画ロスト・イン・トランスレーションを想起させるような都会的な静寂が気持ちの良い9曲目の日本語詞の「Yume No Hazama」が印象的だが、やはり後半の展開は前半に比べてトーンダウンする。素晴らしい前半の出来の後に少し休憩を入れ、もう一つ山場を作り、最後にまとめる、みたいな展開であったらきっと名盤の太鼓判を押した事だろう。このアルバムに関してはスタートダッシュこそ良いものの、アルバム全体としての起承転結が希薄のように思える。


とは言うもののLLLLは進化しており、そのポテンシャルの高さ、進化が味わえるアルバムとなっている。そのテクノロジカルな音像、華やかなメロディに載せて、恋愛の歌詞を歌う様では、東京都心での恋愛模様をイメージさせる。もし東京インディーなるものが存在するのだとしたら、LLLLはその一つの象徴となるバンドになると思う。

Reviewer's Rating : 7.2 / 10.0

新川忠 - "Paintings of Lights" >>